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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)2600号 判決 1968年2月27日

控訴人(原告)

金秀明

代理人

中村一郎

被控訴人(被告)

涌井秀行

外二名

代理人

寺本勤

外二名

主文

原判決を次のように変更する。

別紙目録記載の土地について被控訴人秀行、秀新が各一五分の四、被控訴人和子が一五分の一の各共有持分権を有することを確認する。控訴人は右土地について東京法務局墨田出張所昭和三九年六月九日受付第一七八八二号をもつてした所有権移転登記を控訴人一五分の六、被控訴人秀行、秀新各一五分の四、被控訴人和子一五分の一の各割合による共有持分権の移転登記に更正登記手続をせよ。

被控訴人らのその余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用はこれを一五分し、その九を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において「本件の相続分は韓国民法第九八四条、第九八五条、第一、〇〇〇条、第一、〇〇九条より控訴人一五分の六、被控訴人秀行、秀新各一五分の四、被控訴人和子一五分の一が相当である。仮に控訴人が萬の養子と認められないとしても、控訴人は内縁養子として相続財産分与請求権について養子に準じて保護さるべきである」と述べ、証拠として、当審証人小林ハナの証言を援用したほかは、原判決事実摘示の通り(但し、とあるのを鄭と訂正する)であるから、これを引用する。

理由

被控訴人らが韓国人全萬の子であること、萬が昭和三八年六月二六日死亡し、本件土地がその遺産であること、控訴人は韓国の戸籍上萬とその妻涌井ミヨシとの間の嫡出子として記載されているが、真実は鄭元好と温田みつとの間の実子であることは当事者間に争いがない。

控訴人は、控訴人が萬の養子としてその相続をした旨主張し、法例第二五条によれば、相続は被相続人の本国法によるべきところ、萬の本国法である韓国民法第一、〇〇〇条には、被相続人の直系卑属が第一順位の相続人となる旨定められているから、まず、控訴人と萬とが養親子関係にあつたか否かについて判断する。<証拠>によれば、萬夫婦はかねてから親交のあつた朝鮮人鄭元好夫婦に双生児が生まれることがわかると、その出生前から、男の子であつたら、そのうちの一人をもらいたい旨を同人らに申入れ、昭和一五年三月一三日同人らに男女の双生児が生まれると、出生してから約一週間後にその男の方である控訴人を鄭夫婦からもらい受け、萬は同年八月二〇日控訴人をミヨシとの間に出生した子として本籍地の面長に届け出て、その旨戸籍に記載されるに至つたこと、控訴人は萬夫婦から実子同様に可愛がられて養育され、大学にまで通わせてもらい(四年で中退)、萬万が死亡するまで同人とミヨシとを真実の両親と思つていたことが認められる。当時朝鮮人の民事関係を規定していた朝鮮民事令第一一条第二項によれば、朝鮮人の養子縁組はこれを府尹または邑面長に届け出ることにより効力を生ずる旨規定されているけれども、右事実によれば、萬夫婦は鄭夫婦から控訴人を子とするためにもらい受け、実子としてその出生届をし、実子同様にこれを養育してきたものと認められるから、右出生届により萬夫婦と控訴人との養子縁組の届出がされたものとみなすのが相当である。すなわち、身分法上の行為について届出が要求されるのは、意思表示のされたことを確実にするためと行為のされたことを公示するためと解されるが、他人の子をもらつて自分の実子として養育してゆくために、嫡出子出生届をする場合は、当事者間に養親子関係以上の結びつきを形成しようとする合意、従つて、少なくとも養親子関係を形成しようとする合意のされたことが、養親のうちの一人からの届出によるとはいえ、明確にされているということができるし、また、実子と養子とは身分上の地位について大差があるわけではなく、養子が実子として戸籍に登載されても、一応公示の目的は達成されたということもできるから、当事者間に実質上の養子関係を形成する旨の合意があり、その合意を実現する目的で養子を嫡出子として届出た場合は、届出者夫婦と養子との間に法律上の養親子関係が成立したものと解するのが相当である。なお、このような養子縁組について離縁の必要が生じた場合は、養親子関係であることを裁判上確定して戸籍上の記載を訂正した上、離縁の手続をすれば足るのであるから、離縁の必要のあることはこのような養子縁組を認める妨げとはならない。

以上述べてきたところによれば、控訴人が萬の養子としてその相続人であることは明白であるが、<証拠>によれば、被控訴人秀行(昭和二一年六月一四日生)、秀新(昭和二四年二月一七日生)は萬とカノとの間に出生して男子であり、被控訴人和子(昭和二六年七月二七日生)は萬とカノとの間に出生した女子で、いずれも昭和三九年一二月四日萬の認知裁判確定により同人に認知されたことになつたものであることが認められ、韓国民法第九八四条、第九八五条によれば、被控訴人の直系卑属男子のうち年長者である控訴人(養子は入養したとき出生したものとみなされる)が戸主相続人であることは明白であり(萬が戸主であることは乙第一号証により認められる)同法第一、〇〇〇条、第一、〇〇九条によれば、財産相続においては、財産相続人が同時に戸主相続をする場合の相続分はその固有の相続分の五割が加算され、同一家籍内にない女子の相続分は男子の四分の一であるから、本件の相続分は控訴人が一五分の六、被控訴人秀行、秀新が一五分の四、被控訴人和子が一五分の一となることは明らかである。従つて、本件土地について控訴人及び被控訴人らは右割合による各共有持分権を有しているものというべく、本件所有権移転登記は、一五分の六の共有持分権を超える部分は無効というべく、控訴人は本件登記を右各割合による共有持分権の移転登記に更正登記手続をする義務を負担しているものと解するのが相当である。

よつて、被控訴人らの請求は右の範囲で理由があるけれども、その余は失当であり、棄却すべきであるから、被控訴人らの請求を全部認容した原判決を右の限度で変更することとし、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を適用し、主文のように判決する。(近藤完爾 田嶋重徳 小堀勇)

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